フリーミアムモデルを使用する

フリーミアムのビジネスモデルでは、ユーザーはアプリを無料でダウンロードでき、アプリ内課金を通してオプションのプレミアム機能や追加コンテンツ、デジタルの商品を購入できます。このページでは、各種カテゴリで活躍するデベロッパが、フリーミアムモデルを使用したアプリ開発をどのように行っているかをご紹介します。

有料ユーザーと無料ユーザー両方の注目を集める

料金の有無にかかわらずすべてのユーザーに素晴らしい体験を提供することはフリーミアムモデルに不可欠な要素です。収益化の鍵はユーザーがアプリを気に入るかどうかにあります。ユーザーがアプリの利便性を実際に体験することが、有料機能の購入につながるのです。

「写真加工アプリ「VSCO」では、体験はすべての人に開かれている」と、VSCO社の収益ディレクターであるJP Chookaszian氏は述べています。「一連のクリエイティブなプロセスをできるだけ"民主化"することが重要です。アプリの初回利用時からユーザーの信頼を得るために、最初は無償で商品価値を提供します。やがて、提供されるサービスやツールに価値を見出したユーザーの多くが、より強力な機能を購入してもいいと思うようになります」

「購入した商品にユーザーが満足していないという状況は、当社にとって成功とは言えません」「VSCOとしては、追加の機能はお客様に納得して購入していただきたいと考えております」とChookaszian氏は語っています。

フリーミアムアプリの種類

プレミアムアップグレードが用意されているアプリ

ユーザーはアプリ内で、非消耗型の高度な機能を購入できます。非消耗型のコンテンツは、一度の購入だけで無制限に使用できます(写真アプリの追加フィルタなど)。

サブスクリプションを提供するアプリ

ユーザーは、クラウドストレージなどのサービスや、新聞や雑誌といった定期的に更新されるコンテンツを利用できます。サブスクリプションアプリでは自動更新型のアプリ内課金を提供可能で、ユーザーは繰り返し課金されます。

消耗型のアイテムを提供するアプリ

ユーザーは、アプリをさらに楽しむために、さまざまな種類の消耗型アイテム(ゲームで使用するライフや宝石など)を購入できます。消耗型のアプリ内課金は一度使うとなくなり、再度購入することが可能です。

アプリの初回利用時からユーザーの信頼を得るため、最初は無償で商品価値を提供します。

JP Chookaszian氏(VSCO社の収益ディレクター)

子ども向けアプリ「Endless」シリーズを開発するOriginator Inc.は、提供するフリーミアム体験を保護者が購入前に無料で試用できることが極めて重要であると考えています。Originator社の最高経営責任者(CEO)であるRex Ishibashi氏は、「アプリのレビューを読んで有料版の購入を決めたものの、実際に使用してみると期待したものとは異なっていた場合、がっかりするものです」と述べています。

「ユーザーの信頼を得る1つの方法として、私たちはトライアルや無料コンテンツを有料コンテンツと同等の品質にすることが重要だと考えています。最上の無料コンテンツで注目を集めておきながら、実際に購入すると有料コンテンツは面白味に欠け内容が劣るということではいけないのです」と、Originator社の最高技術責任者(CTO)であるJoe Ghazal氏は語っています。

「Juice Jam」「Cookie Jam」「Panda Pop」といったゲームを開発するJam City Inc.社では、フリーミアムゲームを通して素晴らしい無料体験を提供することがダウンロードのハードルを下げ、より多くのユーザーを引き付けることにつながっています。「当社はソーシャルゲームを制作していますが、ソーシャルゲームはプレーヤーが多いほど楽しい体験となります。ゲームのライフを共有したり、自分のスコアを超えるよう友人に挑んだり、プレーヤー同士で競い合ってスキルを高め合ったりできるわけですが、このすべては素晴らしい無料体験の上に成り立っているのです」と、Jam City社の社長兼最高業務執行責任者(COO)であるJosh Yguado氏は述べています。

「子ども向け」カテゴリにおけるビジネス展開(日本語字幕)

Originator社が「子ども向け」カテゴリで持続可能なビジネスを展開する手法と、アプリ「Endless」がどのように口コミで広がったかを説明しています。

Jam City社は素晴らしい無料体験を提供しつつ、他のゲームのクロスプロモーションを展開することによって新規ユーザーの注目を集めています。

有料ユーザーは、Jam City社の全ユーザー数の半数未満です。Yguado氏は、Jam City社としてはお金を払わないとゲームを楽しめないという印象をプレーヤーに与えないようにしたいと考えている、と述べています。それと同時に、お金を払うプレーヤーについては「確かに価値のあるものを手に入れていると感じてもらいたいと思います。それには何か特別なものが手に入る、追加のコンテンツを楽しめる、お金を払うことでレベルクリアが有利になるなどがあります。私たちの目標は、プレーヤーが安心してゲーム内で支払いできるようにし、金額に見合う価値を十分に感じてもらえるようにすることです」とも語っています。

さまざまなタイプの有料ユーザーに商品価値を提供する

フリーミアムでは、まず無料でアプリを試してもらうことで使用開始のハードルを下げ、より深く楽しみたいユーザーは有料コンテンツを購入できるようになっています。とはいえ、ユーザーの区分(セグメンテーション)は、有料ユーザーか無料ユーザーかのみにとどまらず、さらに細分化されます。成功しているフリーミアムアプリでは、ユーザーの好みや選択した支払金額に応じてカスタマイズされた体験を提供しています。

「プレーヤーによってゲームに求めるものが異なります。競争心の強いプレーヤー、他のプレーヤーとの協力を好むプレーヤー、ゲームの完全攻略を目指す『Completionist(コンプリーショニスト)』と呼ばれるプレーヤーなど、さまざまです。Jam Cityでは、ユーザーのタイプに合わせたさまざまな道を提供するゲームが特に成功していると感じています。したがって、当社のゲームはプレーヤーが好みに応じてシンプルに遊ぶこともできれば、複雑な方法で楽しめるようにもなっています」とYguado氏は語ります。

VSCO社は、ユーザーのアプリ体験の全体を理解することが、ユーザー体験をカスタマイズするのに役立つと感じています。「このアプリを初めて利用したときと今では、自分が求めるものがまったく異なっています」と、Chookaszian氏は自身の使用経験に基づいて述べています。また、「アプリ体験全体を考えるとは、ユーザーがアプリを利用する中での重要なマイルストーンについて考え、そうした重要な局面にアプリが製品としてどのように適合するかを考えるということです。そして、各局面で発生するユーザーのニーズを想定し、そうしたニーズを満たせるよう、いつどのようにユーザーを導くかを考えます」とも語っています。

Originator社が行うセグメンテーションは、個々のアプリのユーザーにとどまらず、さまざまなユーザーグループの好みや予算にまで及びます。たとえば、Originatorではフリーミアム版の「Endless」だけでなく、アプリ内課金のあるアプリは使用できない教育者や教育機関向けに、全額前払いのスクールエディションの「Endless」を用意しています。Originator社はさらに、「Endless」の全アプリと新しいレッスン時間を1つにまとめたサブスクリプション型の「Endless Learning Academy」というフリーミアムアプリも導入し、ユーザーが月単位または年単位でコンテンツのサブスクリプションを利用できるようにしました。

ユーザーのタイプに合わせたさまざまな道を提供するゲームが特に成功しています。したがって、当社のゲームはプレーヤーが好みに応じてシンプルに遊ぶこともできれば、複雑な方法で楽しめるようにもなっています。

Josh Yguado氏(Jam City社の社長兼COO)
Originator社では、全額前払いの有料版、プレミアムアップグレードが用意されたフリーミアムアプリ、フリーミアムのサブスクリプションサービスなど、ユーザーのタイプに合わせたさまざまな購入オプションを提供しています。

「始まりは『Endless Reader』というフリーミアムアプリでしたが、ユーザーの皆様から多くのフィードバックをいただきました。Apple Volume Purchase Planを通して学校で利用したユーザーや、アプリ内課金を好まない保護者の方などから、『このアプリだったら有料版を前払いで購入したい』と言っていただきました。それで、スクールエディションの『Endless Reader』をリリースしたのです」とGhazal氏は述べています。

長期的な視点で準備する

成功しているフリーミアムアプリでは、コンテンツやサービスを常に進化させてユーザーに商品価値を提供し、それがユーザーからの支持と収益化の向上につながっています。アプリを気に入っているユーザーはコンテンツ内をすぐに探索し尽くしてしまうため、新しいコンテンツを常に供給するための計画とリソースが必要になります。

「品質の追求に近道はありません。Jam Cityでは、強力なキャラクター、魅力的なストーリー、美しいビジュアル、技術面での完璧さを備えたゲームを作り、それをあらゆるデバイスから利用できるようにすることを基本方針としています。この基本方針を踏み外すと、たちまちユーザーから批判を浴びることになります。また、質の高いコンテンツを安定して生み出し続けられるチームがないと、すぐに停滞してしまいます」とYguado氏は語っています。

Jam City社のゲームオペレーション元上級副社長(SVP)を務めたMatt Casertano氏は次のように語ります。「コアプレーヤー層の尽きることがない情熱とコンテンツに対する強い要求に気付いた私たちは、そのニーズを満たすためゲームデザインにかなりの投資を行いました。当社は非常に強力なゲームプレーヤーからなる専用のグループを抱えています。彼らは毎週新しいレベルのコンテンツをプレイし、それを終えるたびに次の挑戦を待っています」

5名のスタッフからなるOriginator社では、フリーミアムアプリのコンテンツに対するニーズに応えてきた結果、アニメーションパイプラインがいっそう安定してきました。同社のアプリである「Endless Reader」には、リリース当初は26個の単語しか登録されていませんでしたが、その後若い読者たちにとって重要であると教育関係者が考えるサイトワード(視覚で理解する重要単語)がすべて追加され、今では341個の単語が登録されています。「当社のアプリにおけるコンテンツの成長は、実際のところユーザーのニーズによるものなのです。始まりはゆっくりでしたが、当社のアプリがそれぞれ真価を実証するにつれて、会社は成長し大きくなりました」と、Ishibashi氏は語っています。

質の高いコンテンツを安定して生み出し続けられるチームがないと、すぐに停滞してしまいます。

Josh Yguado氏(Jam City社の社長兼COO)

アナリティクスを活用して最適化する

成功しているフリーミアムアプリにはアナリティクスが組み込まれており、デベロッパはその情報によってユーザーの好みを理解し、アプリを改良しています。

「Jam Cityではスケールを非常に重視しており、スケールの大きな成果を達成するには可能な限り最高のユーザー体験を提供することが求められます。当社では、そうしたユーザー体験をより良いものにするためのツールとしてデータを捉えています。たとえば、アプリを再度利用したユーザー数を日ごとに示すリテンション(ユーザー定着率)など、高レベルのKPIを注意深く見ます。私たちが目指すのは何年にもわたってプレイしてもらえるようなユーザー体験を提供することなので、短期だけではなく、非常に長い期間にわたる定着率にも注目しています」と、Casertano氏は述べています。

「リテンションからデータを掘り下げる際に大変重要なこととして、ファネル(各ステップをクリアしてゲームを進めているユーザーの数)の分析があります。これを簡単に行う方法の1つは、直線的に進めるゲームでレベルを上げているユーザーがどれくらいいるかを調べることです。これでわかるのは、収益化とユーザー離れの相関性です。ここが、繊細かつ熟練した感覚でゲームを調整する手腕が問われるところです。難易度があまりに低すぎるとユーザーはつまらなく感じますし、逆に難易度が高すぎてもユーザーを圧倒し、不満を感じさせてしまいます。数字を見ることで、私たちは定期的にこうした分析や調整を行い、日々改良を加えるのです」

Originator社のGhazal氏は、ユーザーの注目を最も集めているものは何かをデータから探しています。「収益力強化の観点に加えて、ユーザーの利用時間が長いのはアプリのどの部分なのか、ユーザーにとって特に面白い部分はどこなのかを知る上でも、アナリティクスは絶対に不可欠な手段になっています。実際、新しくリリースした『Endless Learning Academy』では、アプリのある部分をユーザーが長時間利用していることがわかりましたが、それは私たちが予期していなかった部分だったので驚きました。そうなった要因はまだ完全には判明していないのですが、考えられるいくつかの要因を一部のユーザーとのフォローアップセッションで取り上げて、何が重要で何が重要でないかを見極められればと考えています。予想通りのこともありますが、驚きや発見も多いのです」とGhazal氏は話しています。

VSCO社のChookaszian氏は、量的データと質的フィードバックを組み合わせることがユーザーの好みをより有意義に把握する助けになっていると感じています。「量的データを狭い視野で分析すると、木を見て森を見ずになってしまいます。データから仮説を立てることはできますが、本当に重要なのはコミュニティに出向いてその仮説を立証することです」と、Chookaszian氏は述べています。

アプリのパフォーマンスを測定する

ユーザーがどのようにアプリを見つけて利用しているのかを理解すれば、さらに優れたアプリ体験を生み出し、ビジネスの成長につなげることができます。App Store Connectの「App Analytics」、「売上とトレンド」、「支払いと財務報告」では、ほかでは見つけることのできない有益なデータを得ることができます。

アプリのパフォーマンスを測定するについてさらに詳しく

収益力強化の観点に加えて、ユーザーの利用時間が長いのはアプリのどの部分なのか、ユーザーにとって特に面白い部分はどこなのかを知る上でも、アナリティクスは絶対に不可欠な手段になっています。

Joe Ghazal氏(Originator社のCTO)

量的データを狭い視野で分析すると、木を見て森を見ずになってしまいます。データから仮説を立てることはできますが、本当に重要なのはコミュニティに出向いてその仮説を立証することです。

JP Chookaszian氏(VSCO社の収益ディレクター)

マーケティングによってユーザーと接触する

ターゲットユーザーと接触する機会を最大限に高めるため、成功しているフリーミアムデベロッパの多くは、広範囲にわたるApp Analyticsの「ユーザー獲得マーケティング」を展開しています。価格という障壁がないアプリはユーザーからダウンロードされやすいものですが、マーケティングを行うと、そのフリーミアムアプリを特に気に入ってくれるユーザーに広く接触することができます。

Jam City社は新規ユーザーを主に紹介で獲得しています。友人や信頼できる情報源からの口コミやクロスプロモーションを通してユーザーが入ってくるのです。「当社は戦略的な判断として、一連のゲームシリーズを制作して相互にプロモーションし合うことにしました。1つのゲームを気に入ったユーザーには他のゲームも気に入ってもらえる可能性があり、そのようなゲームがたくさんあるということが当社の大きな強みになっています。相互にサポートし合うゲームシリーズがあると、ユーザーの獲得、会社のブランド化、世間への啓蒙活動がしやすくなります」と、Yguado氏は述べています。

さらに、Jam City社のスケールであれば、有料のゲームユーザの獲得に投資することも有益です。Casertano氏は、Jam City社のソーシャルメディア広告、テレビコマーシャル、地下鉄のポスターの活用について「状況的に当社のアプリに合った場所での認知度を高める狙いがある」と述べており、「人々が新しい体験を求めているあらゆる場所でJam Cityを見てもらいたいのです」とも語っています。

Originator社では、有料ユーザー獲得にかける投資額と、回収できる見込みの収益額を比較検討しています。Ishibashi氏は次のように話します。「Originator社は当初から有料ユーザー獲得のためのマーケティングを検討してきましたが、実際のところ、投資に値する経済的なメリットを見出すことはできませんでした。しかし最終的に、サブスクリプションベースのサービスを通して、有料ユーザー獲得のためのマーケティングが意味を成すビジネスモデルを構築することができたのです。メンバーが5名しかいないので大きなマーケティングチームがあるわけではありませんが、実際に製品を市場に出す前に、サブスクリプションベースのアプリをユーザーがどのように利用しているかをさらに調査するとともに、その他の最適化もいくつか施す予定です」

コミュニティに自社の製品のマーケティングを行ってもらうというのは最も説得力があるマーケティングの形であり、ユーザーの側から積極的に関与してもらえるブランドであることはとりわけ大きな栄誉です。

JP Chookaszian氏(VSCO社の収益ディレクター)

アプリ内課金のプロモーションコード

報道関係者やインフルエンサーがアプリのアプリ内課金をいち早く利用できるようにするためのプロモーションコードを、App Store Connectで発行することができます。プロモーションコードはアプリ内課金アイテム1つにつき100個まで、1つのアプリにつき最大1000個まで発行可能です。さらに詳しく。

VSCO社のマーケティング手法は、ターゲットユーザーが写真のトピックで交流している場所を把握することです。「写真は誰でも簡単に共有できるので、ソーシャルメディアにもあふれています。それが、写真をこれほど魅力的なメディアにしているのです。VSCOでは当初から、クリエイティブなユーザーが当社や他社のプラットフォームでコンテンツを共有する際のユーザー体験を最適化する方法を考えてきました」と、Chookaszian氏は述べています。

「最も説得力があるマーケティングの形とは、コミュニティが代わりにマーケティングを行ってくれることです。ユーザーが投稿に付けるVSCOのハッシュタグは、その1つ1つがわたしたちにとって大変に価値あるものです。当社のブランドを誰かが自ら進んでタグ付けして公開してくれるというのは本当に光栄なことです。私たちは、そうした投稿を大事にして見守っていきたいと考えています」と、Chookaszian氏は語っています。

取り上げたデベロッパの紹介

Originator Inc.

カリフォルニア州サンフランシスコ

取り上げたアプリ:Endless Reader、Endless Numbers、Endless Alphabet、Endless Learning Academy

カテゴリ:子ども向け

プラットフォーム:iOS、tvOS

App Storeで見る

VSCO

カリフォルニア州オークランド

取り上げたアプリ:VSCO

カテゴリ:写真/ビデオ

プラットフォーム:iOS、watchOS

App Storeで見る

Jam City Inc.

カリフォルニア州ロサンゼルス

取り上げたアプリ:Cookie Jam、Panda Pop、Juice Jam

カテゴリ:ゲーム

プラットフォーム:iOS

App Storeで見る