デザインの舞台裏:Any Distance

Apple Design Awardsを受賞したアプリ、Any Distanceのアートエレメントのコラージュ。

Any Distanceのような見た目と感覚を提供するワークアウトトラッキングはこれまでありませんでした。

「アスリートのみならず、すべての人に向けて作っています」と語るのは、エンジニアのDaniel Kuntz氏とともにこのSwiftベースのアプリを制作したアトランタ在住のデザイナー、Luke Beard氏です。「私たちはあまり運動が得意ではなくて。というか、どちらかというと運動音痴ですね! 私の夢は、いつか引退したらアイスランドに行って写真を撮ることです。Danは引退したら、砂漠で音楽を演奏したいそうです。つまりオリンピックに出たいというほどではありませんが、健康で長生きはしたい、というわけです」。

Any Distanceのスクリーンショット3点:アプリで表示されるさまざまなワークアウトデータ。

デザイン性に優れたこのアプリは、フィットネストラッカーとソーシャルネットワークの機能を兼ね備え、ワークアウトの統計情報を、ダイナミックなチャートやグラフ、アニメーション3Dマップ、AR体験、さらには写真も統合できる豪華なカードなど、共有可能な美しいフォーマットで提供します。このアプリではSF Symbolsを多用しています。Beard氏は「SF Symbolsは、デザインに対するAppleの唯一最大の貢献」であると遠慮なく語ります。アプリ内でコレクションできるエレガントなアイテムのほかにも、小さな友人の環の中でつながることを目的としたアプリ内ソーシャルネットワークもあります。Any Distanceという名称は、アプリの哲学そのものでもあり、水泳や自転車だけでなく、歩きながらのミーティングやベビーカーを押しながらのランニング、最も人気のあるオプションである犬の散歩などもカウントされます。

写真:Luke Beard(Apple Design Awards受賞アプリ「Any Distance」創設者)。

Any Distanceでは、Appleのツールやテクノロジーを各所で活用しています。ルートのレンダリングにはARKit、ワークアウトデータにはHealthKit、Kuntz氏が呼ぶところの「グラデーション背景の渦巻き状のもの」のレンダリングにはMetal、その他レンダリングにはSceneKit、さらにMapKit、Apple Watchへの統合などが採用されています。また、このアプリではAny Distanceのプライバシー尊重へのコミットメントも顕著に現れています。「ユーザーのデータはすべてHealthKit内にあり、友だちに共有しない限り、当社で保存することはありません」とBeard氏は説明します。「地図の共有はできません。(ルートの始点と終点が公開されないように切り取られる)ルートクリッピングは、デフォルトでオンになっています」。また、各メトリックの下にある目のアイコンをタップするだけで、友人と共有するデータを正確に選択できます。

SF Symbolsは、デザインに対するAppleの唯一最大の貢献

Luke Beard(Any Distance創設者)

Beard氏がAny Distanceのアイデアを思い付いたのは、パンデミックの最中でした。当時、彼のライフスタイルは決して健康的と言えるものではなく、そんな自分を奮い立たせるため、彼は長い散歩を始め、その道中を写真に収めて投稿するようになりました。Beard氏は「慢性的な共有依存ですね」と笑いながら、「本性は写真家なんです。周りの反応も好意的でした」と続けます。そんな彼はやがて、SNS投稿用テンプレートをデザインするようになります。「マスクの中に写真を入れただけなんですけどね。現在、当社のメインブランドの特徴の一つとなっている楕円形に、ルートと統計情報を楽しいフォントで表示しました。それで、いろいろな人に『使っているのはどのアプリ?』と聞かれるようになりました」。

スクリーンショット:アースデイや女性史月間のメダルを含め、Any Distanceでワークアウトを共有すると獲得できる6つのメダル。

すでにこの時点で、App Storeでいくつかのタイトルを出していたプログラマー兼ミュージシャンのDaniel Kuntz氏とは接点ができていました。「デベロッパとして、『このアプリを作ってくれない?』とよく聞かれるんですが、いつもだったら『できない』と答えています」(Kuntz氏談)。「ですがこの時は、Lukeがすでに話を具体化していたんです。iOSのコンポーネントとSketchファイルが用意されていました。シンプルで明快で、とてもクールだと思いました」。

今年はハロウィンのTrick or Treatのような斬新なアクティビティオプションの追加も検討しています。「いずれは、グループで自転車に乗って出かけたり、犬の散歩をしたりする企画を立ち上げたいと思っています」(Beard氏談)。「ここ数年で孤独な時間を過ごす人が加速的に増えました。そんな中で、一緒にワークアウトしたり、アクティブに行動することが、他人とつながる新しい時間の過ごし方になると考えています。散歩の距離が短くたって、子どもをベビーカーに乗せて散歩をしていたって、杖をついていって、そんなことは関係ありません。そんなあなたにもぴったりの居場所があるはずです」。

Download Any Distance from the App Store

デザインの舞台裏は、Apple Design Awardsの各受賞者がどのようにデザインを実践しているか、またその哲学を探っていくシリーズです。各ストーリーごとに、賞を獲得したアプリやゲームのデベロッパやデザイナーが、どのようにしてその素晴らしい作品に命を吹き込んだのか、その舞台裏を覗いていきます。

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